No. 143/305 Index Prev Next
To: followup@kanai.ie.u-ryukyu.ac.jp
From: kono@ie.u-ryukyu.ac.jp (Shinji KONO)
Newsgroups: fj.rec.sf
Subject: 火星転移 グレッグ・ベア       __ Moving Mars
References: < 18100.1041586657@insigna.ie.u-ryukyu.ac.jp> 
Mime-Version: 1.0
Content-Type: Text/Plain; charset=ISO-2022-JP
Organization: Information Engineering, University of the Ryukyus
Reply-to: kono@ie.u-ryukyu.ac.jp
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Date: Thu, 16 Jan 2003 18:09:38 +0900
Message-ID: < 11668.1042708178@insigna.ie.u-ryukyu.ac.jp> 
Sender: kono@insigna.ie.u-ryukyu.ac.jp

河野 真治@琉球大情報工学です。

やっと読み終ったい。(東京の蕎麦屋さんに本を忘れてしまって...)
確かにこれは名作ですね。こんなの読み落していたとは。初版が出
たときに買ってるんだけど、なんとなくつんどくになってました。
帯には「女王天使」がどうのこうのと書いてあったけど、全然、関
係ないですね。「火星転移」の方が名作だし。

このベル連続体へのアクセスってのはグレックの好きなアイデアな
のね。「天空の殺戮」にも出て来たし。「凍月」もどっかに転がっ
ているはずなんだが、屋探ししないと出て来ないだろうなぁ。

キャシーアという少女(っていうにはふけてるか.. 大学生から大人
になるまでみたいな感じだから)が、いろんな人と出会いながら(女
として政治家として)成長していく物語と、ベル連続体に関連する
発明(だよな...)から生じる火星の危機に関する話とその解決みた
いな話。そして、そこに火星の古代生物の話がちょっと混じるんで
すね。

なんだけど、恥ずかしいんだよね。「耳をすませば」じゃないけど、
「時代は少女漫画」ってわけかな。前半の火星の化石探しの旅の話
なんか「うわぁ、やめてくれぇ」ってところです。女性は、そんな
感じなんじゃないのと男が考えているようなところがあって、まぁ、
なんつうか、恥ずかしく出来上がっているわけですね。「天空の殺
戮」でも、そういう恥ずかしい話が出て来るんだけど、グレッグ・
ベアってそういう奴? 現実の女性は、もっと計算高いけどね。

まぁ、そういう恥ずかしさも名作のうちってところですか。こう
いうテーマだと「月は無慈悲な夜の女王」と比べられるわけです
けど、だいぶ方向性が違うので、うまく比較を避けるようにでき
ている気がする。ハインラインの方が楽観的に書いてますね。

じゃっかんねたばれぎみいきますが...











前半に出て来る地球にいく話は、ちょっとずれている気がする。僕
が読むと「地球=アメリカ、火星=新興国家(たとえば明治の日本)」
というわけなんだけど、少し違うのかな。ずれていると感じるのは、
火星から来た特使の扱いですね。いまいち政治的必然性が良くわか
らない。無視すれば政治的に特使は失敗なんだから、それで十分な
んじゃないかなぁ。

なんか秘密兵器を持っていそうだってだけで、あんな行動にでるっ
てのは、ちょっと無理があるような気がする。地球側の視点がない
から、説得力がない。でも、一方で、今のアメリカがイラクに対し
てやっているのは、まさに、そんなようなことなんだよね。ただ、
火星があまり無防備すぎるってのは(テロで転覆されそうになるの
はさすがに恥ずかしい...)必要な設定だとしても、無理筋だと感じ
ました。

そういうものの例としては核兵器や水爆があるわけだけど、そんな
風にはならなかったわけだしね。実際、こちらが有利なカードを持
っているうちに、政治的決着をつけなかった無能な政治家のせいだ
って気もする。まぁ、キャシーアも言っているように「こちらも
まずい手をうった」ってことなんでしょうけど。

ただ、こういう相互殺戮みたいになるってのは西洋文化の必然性で
もあるような気がする。おそらく、向うの読者はもっと素直に受け
入れられるんでしょう。相手が必殺の兵器を持っているんだから先
に殺るしかないってわけだね。もちろん、そうは考えない人も多い
んだろうけど、そう考えるグループが先走るってのは良くある話。

一方で、タイトルのMoving Marsという結果に走る火星は、非西洋
文化的な部分があるのかも知れない。でも、グレッグ・ベアの描く
火星の文化は極めて西洋的に映るけどね。こちらの敗走は、やっぱ
りアメリカ人にはあまり受け入れられないものなんじゃないかなぁ。
最後に逮捕されちゃうシーンがあるけど、それは、そういう部分を
代弁しているんでしょうね。それにベアが同調してないのは救い
を感じるけど。


---
Shinji KONO @ Information Engineering, University of the Ryukyus, 
              PRESTO, Japan Science and Technology Corporation
河野真治 @ 琉球大学工学部情報工学科, 
           科学技術振興事業団さきがけ研究21(機能と構成)
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